音楽聞く

がんばる

2023051314

 

 

レイヴは楽しい。2019年あたりにトロントで初めてレイヴを体験して以来、クラブなどのフォーマルな場所以外で爆音を浴びるパーティーにすっかり虜になった。雑居ビルの最上階やジムの廃墟で催されていたそれは、怪しげでハンドメイド感があり、クラブとは異なる解放感があった。

 

そうして帰国してなんやかんやあってDJやパーティーを始めると、幸いに音楽狂いの友達ができ始め、山梨の山奥でやるレイヴに誘ってもらえた。昨年のつくばでのレイヴとは異なり、今回は設営に参加し、野外でDJをする。

 

イベントは、音響機材から装飾、照明、飲食物すべて持ち寄り、商いも自由のDIYレイヴ。会場は山梨県の山奥にある宿泊施設。屋内も会場として使わせてもらい、玄関をDJ/ライブのサブフロア、風呂場をライブフロア、宿の前にある野外スペースをDJのみのメインフロアとして利用した。当日はあいにくの雨で、野外のスピーカーにビニール袋などを被せて対応し、予定より2時間程押しでスタート。

 

 

まず、装飾が冴え渡っていたのがサブフロア。DJブース後方には、当日のアクトすべての名前がプリントされた白い幕が天井から降り、ブースの対角線上には、平行に並ぶ二枚の木板の穴に白い花が差し並べられ、蛍光灯によって照らし出されていた。ブース横ピアノのそばには針金と毛糸ともつれる様に手作りの人形たちが起立し、機材と机だけでは無機質だった空間が可憐かつややダークに彩られていた。野外のサブウーファーの上に置かれた花たちも、その有機性によってスピーカーやターンテーブルの並ぶマシーン然とした空気を和らげていた。

 

 

 

風呂場へ向かうと、洗面台と浴槽にも花が生けられている。浴槽の端に置かれた数本の蛍光灯が空間を照らし、モジュラーシンセやドラムマシーン、ラップトップから発せられるグリッチ、瑞々しい不協和音がタイルに反響していた。無人の時間も電子音のループが鳴り、白の発光とノイズの混ざり合うチルフロアとして風呂場が機能しており、ずっとそこに居れそうな気がした。

 

 

設営でへばり倒し、前日にあまり寝れなかったこともあり、前半のアクトはあまり見れず後悔。夜、音漏れを聴きながら布団の上で死体と化していると、隣の部屋でギャルが「足立区をガバ地区にしたら良くない?! ガバ地区でガバのパーティーやったらいい」と騒いでいて、超和んだ。行きたい。

 

 

以下見たアクトの感想です。敬称略。

 

Hënki

トランス新鮮でとても楽しかった。ラストにフルで流し切ったのんのんびより?サンプリングサイケトランス、熱かったです。トランスを掘りたい。

 

・鼓鐘景(bxxgmann+ゴキブリパラノイア)

キモい音連発で超良かった。シャーマニックぐるぐる変態セットもっとやった方がいい!

 

・鬼曲(ゆうのすけ、りゅうすけ)

サイケデリックトラッドダウンテンポで潜った後の、Beigeのぶちかましダブノイズに感動。地に足が着きまくっていて、心地良かった。

 

arow

潜るベースサウンドからサイケデリックへ流れるセットに痺れた。ピンクフロイドをもっとちゃんと聴こうと思った。

 

yayoi

すわーーーって感じのクリアなドラムン沁みますね。最後の曲めっちゃ最高!あれ何ですか

 

・本物

ノイズの波から徐々に入り込んでくる鋭利なブレイクビーツが格好良い。気持ち良かった。パーティーに呼びたい。

床に寝ながら無表情でノイズに浸る人たちが何人かいて、ほっこりした。

 

 

 

5時頃 自分の出番が来る。快晴でこそないが、運良く雨は上がっている。周りを見渡すと、いつもの暗いクラブのフロアと違って人の顔がよく見える。のんびりとした雰囲気の中、数人と視線を交わした気がして少し気分が上がる。

 

sv1の『heat, time』をかけた時にぴょんぴょんと跳ねる人が視界の端に入り、高揚した。終盤、bpmを上げて後に繋ごうと思ったが集中力が切れ、これだという曲も浮かばず萎んだ。最後はIni Kamozeの無理くりレゲエでおわり。後半はいまいちだったが、儀式的だったりふわふわしたり早くなったり、落ち着きなく色んなところへ音が行き来して純粋に楽しくやれた。念願の朝方に野外でのDJ、やらせてくれてありがとう。

 

 

 

わたしの後の宇宙チンチラのプレイは、早朝とか疲労とか頭にあるものを全部吹き飛ばすような凶暴ビートとアーメンの連打で、あー別にこれでいいんだと思えてほっとした。きもいフットワークも流していて、大変ありがてえなと思いました。

 

 

様々なジャンルの音楽を聞いた一日だったが、一番に心動かされ踊ったのが終盤のハウスタイム。その音は朝方の空気と調和しながら、疲労のピークを越えて絞りかすになった体に刺さった。

 

kota watanabe、ハウスでこんなに踊ったことないかもというくらいバチバチに踊った。サイケデリックなハウスとグルーヴの軽快さに心打たれたので、是非また拝みたい。

 

その流れを引き継いでのkasetakumi、陶酔感のあるハウス、テクノで駆け抜け、トリまで急遽延長に決まってからの追い上げは天晴れでした。Born Slippyのリミックスがかかって、皆思い思いに、幸せそうに踊る様はいつまでも見ていたかった。あのイントロが鳴って、ぞろぞろと人が集まってきた時は少し笑った。

 

終了予定の時間を過ぎても無邪気に彼は曲を流し続ける。ふとbpmが段々とゆっくりになってきたので、遂に終わるかなと思いきやまた速度を上げてきたのにも笑顔になってしまった。茶目っ気と遊び心にすべてを持っていかれた。

 

 

 

当たり前のことだが、長時間に渡るパーティーは栄養補給も肝心だと思った。サラダ、マカロニ&チーズ、豚汁&うどん、パンとパテ、サングリア、スパイスティー、その他分けてもらった料理やお菓子、何かを持ち寄って分け合う精神に大いに助けられた。朝方、メインのフロアに落ちていたポテチもバリバリ食った。

 

一番に沁みたのは、朝になって友人と回し食いしたりんごだった。疲れていたのもあったが、こんなにも美味いものなのかと面食らってしまった。レイヴは果物持参超大事。

 

 

 

たった一晩の出来事であったとしても、誰もが自由に音を楽しむことのできる空間が、確実にそこにはあった。ただ音楽を大きな音量で浴び、踊るための場所作りを続けていきたいと思えたから、あの場所に居れたことはただ有難かった。朝になっても開放的に踊る人々を思い出すと、またこんな日があればいいなと思った。

 

 

面白いなと思ったのは屋号を掲げず、フライヤーには年月日だけが記されていたこと。それは前回のつくばの時と同じで、イベント自体に特に名前はなかった。敢えて名付けることを避けたのはその秘匿性よりも、縛らず、緩やかに連帯する様を示唆しているかのようで、わたしにはその形態は心地が良かった。

 

また会える日を楽しみにしています。ありがとうございました。